インタビュー
この人が語る健康
「この人が語る健康」は健康づくりに携わる方に、
取り組みを始めた経緯や、そこに込める思い、
関わり方、これからのことなどについて伺い、
「健康とは何か、そのために何ができるか」を
探ります。
- vol.05
- 2021年1月20日
- 高齢者あんしん相談センター高尾
- センター長斉藤 健一
- 業務内容
-
- 介護予防のための支援
- 地域の課題(高齢化・独居率増加・認知症の方の増加・フレイル者の増加など)解決に役立つような健康づくり
- 健康のためにしていること
-
- 毎晩欠かさずストレッチ
- 訪問業務での歩きでは競歩みたいにホンキで歩く
- 1日1万歩越えを目標に歩く …くらいですね(笑)
第5回目は、高齢者あんしん相談センター高尾の斉藤健一センター長です。このセンターは八王子市から八王子保健生活協同組合(通称;はちせい)が委託されて運営しており、地域の高齢者やご家族の悩みごとを「何でも相談」できるところです。また、介護保険の申請など市のサービスの申請ができるほか、高齢者向けの介護予防教室など、さまざまな催しを行っています。
- 地域の健康づくりに携わるようになったきっかけがありますか?
-
斉藤
はちせいの職員として、病院やデイケアで相談員の仕事をしてきましたが、2006年介護保険制度が改定され、このセンターが開所したのをきっかけに、健康づくりのお手伝いを始めるようになりました。
元気な方はいつまでも元気で過ごせるよう、寝たきりにならないようにする「介護予防」支援は大きな役割のひとつです。高齢化・独居率増加・認知症の増加・フレイルの増加など、課題もたくさんあります。さまざまな情報を集めて地域に伝えたり、自分で習得した体操を皆さんと一緒に実践したりしています。
- センターの活動に、特徴やこだわりがあったら、教えてください。
-
斉藤
高齢者あんしん相談センターは、八王子市に21カ所設置されています。地域性があり、山間地区・駅前マンション群・斜度のある集合住宅街など多彩な環境で、課題もさまざまです。
たとえば、駅周辺は学生の街で、若い世代は「風の人」と呼ばれ、風のようにサーッと来て、サーッと去っていきます。こういう人たちは根づかないので、街の担い手が育たず、「地の人」(地元育ちの高齢者)だけになり、お祭りのときなど、お神輿担ぎに若い職員が狩りだされることもあったりします。
「○○台」という地名のところは「台の地区」と呼ばれ、斜度がきつく、膝を痛めてなかなか外に出られないのが課題です。山間部の人は、畑仕事で足腰は丈夫なのですが、認知症やメンタルの問題が大きくなっています。
八王子は城下町で、昔からの伝統的な部分が残っている地域です。その良さを生かしながら、一人ひとりを訪問し、困りごとの相談に応じるだけでなく、高齢者の方々が集い、楽しみながら健康づくりが行えるような「場づくり」を、とくにこだわってサポートしてきました。
- 体力医学研究所との運命的な出会いがあったと聞きましたが。
-
斉藤
きっかけは3人の人物で、母と三浦のおばちゃん、そして体力医学研究所の兵頭さんです。
20年前に筑波大学の認知症予防「利根プロジェクト(フリフリグッパー体操の効果検証)」が、私の故郷である茨城県の利根町で実施されました。母も参加していたのですが、私が「誰でも・気軽に・楽しみながら・効果のある」体操を探していると話したら、「フリフリグッパー」を勧められました。
さらに、リーダー的存在の「三浦のおばちゃん(私の同級生の母)」経由で『筑波大からフリフリを教えに来てくれた学生さんが、八王子に就職して、今も体操関連の研究をしている』との情報を入手。三浦のおばちゃんが兵頭さんに私のことをつないでくれて、母から連絡先の書かれた手紙を受け取りました。
その母は、すでに亡くなっていますが、思い切って兵頭さんへ連絡したことから、現在の関係が始まりました。
- 現在、体力医学研究所と共同で行っている八王子プロジェクトについて教えてください。また、どんなことを期待されていますか?
-
斉藤
はじめは、高齢者を集めて「スローエアロビック」で脳機能が維持・改善されるのかどうかを調べる研究をするはずでしたが、コロナ禍で方向転換をしました。
人を集めることができないので、オンラインを使って実施することにしたのです。
けれども高齢者にとっては、オンラインを使いこなすことは、かなりハードルが高いのです。そこをクリアするために「つなげ隊」が出動し、一軒一軒の家をまわり、ビデオ通話ができるように機器の設置や使い方のサポートをおこなう予定です。高齢者にも、スマホやタブレットを使えるようになりたいという欲求があるので、この試みは多分うまくいくと思います。
プロジェクトには、大きな期待が2つあります。
ひとつはフリフリグッパーの進化系である「スローエアロビック」の広まりに期待しています。これまで八王子で10年間広めていたフリフリグッパー体操には、ものすごく愛着がありますが、その本家の方が勧めてくださる「スローエアロビック」ですから、さらに興味が沸いているのです。
もうひとつは、コロナ禍で低下している高齢者の方々の体力回復手段として、このプロジェクトの「オンライン」を使った双方向コミュニケーションによる体操実践が有効ではないかという期待です。
- ご高齢の方がたで、しかも在宅での体操となると自分はうまくできているのかとか、健康面にも不安を抱える方もいらっしゃるのではないでしょうか?
-
斉藤
このプロジェクトでは、オンラインの双方向システムを活用して、インストラクターの動きやほかの参加者の様子、自分の動きを確認でき、わからないところをその都度質問することができます。
インストラクターも参加者の様子がわかるので、アドバイスを受けられます。
また、研究支援スタッフがリアルタイムモニタリングで心拍数を把握する安全管理システムがあり、安全面でも十分な配慮がされています。
- ご自身の健康観、人生の目標、これからしたいと思っていることなど、語っていただけますか?
-
斉藤
健康は何もしないでは保てません。けれども健康であり続けるために、ただ「頑張って」取り組んでいるだけでは長続きしないと思うのです。
日常生活を送るなかで、「好きなこと」が身体を動かすことだとしたらそれを続ければよいでしょう。新しい何かに取り組むことは高齢の方には、とても勇気がいることです。そんなとき、「自分のためになって、効果があり、楽しくて、気軽に、皆で」取り組めるものなら、やろうかな?という気持ちになってくださるのではと思います。今の時代は「普通」に暮らすことが難しいので、高齢者の皆さんには「普通に良いね!」と感じてもらえるような何かをお手伝いをし続けたいと思っています。
じつは私には、利根町に親を取り残して出てきたという贖罪意識のようなものがあるのかもしれません。それで、どのじいちゃん、ばあちゃんにも元気で長生きしてもらいたいというのが、現在の仕事のモチベーションになっている気がします。
「Cafeかじやしき」はそうした場づくりのひとつの形です。「おたがいさま」の力で、ふれあいいきいきサロンを運営し、皆さんが生きがい活動を続けられればと願っています。
築39年の民家は、その拠点としてふさわしく、利用者の寄付と労力でお昼ご飯もお出しして、アットホームな雰囲気を保っています。
インタビューを振り返って
「笑顔」がとても素敵なセンター長。じつはフリフリグッパーも、ものすごくお上手でした。いつでも、どこでもすぐに踊りだせる…そんな人なつっこさが魅力です。心のなかには、いつもふるさとのご家族への思いがあり、それが現在のお仕事の推進力となっているというお話は心に響きました。こんな時代だからこそ、孤独になりがちな高齢者の方がたとともに生きる、明るくて優しい存在であり続けていただきたいと願っています。