公益財団法人 明治安田厚生事業団

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プレスリリース

認知機能を高めるための運動は、脳からの指示が重要である可能性
―脳内の中枢神経活動の活性化が鍵―

ポイント


◎ 低強度運動および中強度運動が認知機能の改善に与える影響について、電気刺激による筋収縮(EMS1)と自発的な運動による比較検討を行った
◎ その結果、EMSと低強度運動後には変化が無かったが、中強度運動実施後には認知機能の改善が見られた
◎ 中強度運動中には自律神経活動2の反応が顕著であり、自発的な運動による中枢神経系3の活性化が認知機能の改善に寄与する可能性が示唆された

概要


公益財団法人 明治安田厚生事業団の須藤みず紀副主任研究員と電気通信大学の安藤創一準教授らの研究グループは、電気刺激による筋収縮(EMS)、ならびに低・中強度の随意運動(自発運動)が認知機能に与える影響について検討しました。実験の結果、中強度の運動を行った後には認知機能の改善が見られましたが、EMSや低強度運動の後には変化が見られませんでした。また中強度運動の後には中枢神経系が活性化することを確認し、自発的な運動による神経活動が認知機能の改善に寄与する可能性が明らかになりました。この結果、運動による認知機能の改善には運動強度が重要であること、更に自発的な運動による中枢神経系の活性化が、認知機能の改善に寄与する可能性が示唆されました。

本研究の成果は、応用生理学系の国際学術雑誌「European Journal of Applied Physiology」に2024年7月23日付で公開されました。

研究の背景


これまでの研究から、運動が認知機能を向上させることが数多く報告されています。私たちは運動の代替としてのEMSに着目し、脚部へのEMSと腕の自発的な運動を組み合わせることで認知機能が改善することを報告してきましたが、そのメカニズムは明確になっていません。今回の研究では、EMSと低・中程度の自発的運動が認知機能に与える影響を比較することで、認知課題に対する反応時間、すなわち認知機能の改善に寄与する要因を明らかにすることを目的としました。

対象と方法


本研究では24名の健康な男性(平均年齢22.5歳)を対象に実験を行いました。参加者はEMS、低強度運動、中強度運動を実施し、それぞれの前後に認知機能課題(Go/No-Goタスク)4に取り組みました。認知機能の評価には課題に対する反応時間を用いました。また心拍変動の測定により自律神経活動を評価しました。


結果


中強度運動を実施した後は認知機能課題に対する反応時間が有意に短くなりましたが、EMSならびに低強度運動後では改善が見られませんでした。また、自律神経系の活動を示す指標である心拍変動から算出したLnRMSSD(副交感神経5活動の指標)は、EMSおよび低強度運動中に減少しましたが、中強度運動ではさらに大きな減少が見られました。また副交感神経活動の指標と認知機能課題の反応時間の関係を検証したところ、中強度運動のみ関連性があることが明らかになりました。この結果、中強度運動による認知機能課題の反応時間改善は、脳内の中枢神経系の活動が鍵となっていることが間接的に示唆されました。


筆頭著者のコメント


今回の研究では、中強度の自発運動が認知課題に対する反応時間の改善に寄与する一方、自発運動ではないEMSや低強度運動では効果がないことが確認できました。これにより、認知機能課題における反応時間の改善には運動強度と自発的な運動による中枢神経系の活動が重要であることが明らかになりました。今後は、EMSの効果をさらに詳しく調査し、反応時間の改善に寄与するメカニズムを解明する必要があります。

発表論文


掲載誌:European Journal of Applied Physiology
タイトル:Effects of voluntary exercise and electrical muscle stimulation on reaction time in the Go/No‑Go task
著者:Mizuki Sudo, Daisuke Kitajima, Yoko Takagi, Kodai Mochizuki, Mami Fujibayashi, Joseph T Costello, Soichi Ando
DOI: https://doi.org/10.1007/s00421-024-05562-8

用語解説


1. EMS(Electrical Muscle Stimulation):電気刺激によって筋肉を収縮させる技術で、医療行為やリハビリテーション、スポーツトレーニングで使用されている。筋力の向上や回復を促進する効果がある。
2. 自律神経活動:私たちが意識してコントロールできない体の機能(心臓の鼓動や消化など)を調整する働き。無意識のうちに行われる活動で、体のバランスを保つために重要。
3. 中枢神経:脳と脊髄から成り、身体のすべての情報を統合し、指令を出す役割を担っている。運動や感覚、思考などの基本的な生命活動を支える重要なシステムであり、自律神経活動の制御も担っている。
4. 認知機能課題:注意力、記憶力、判断力などの脳の働きを評価するためのテストで、脳の健康状態や特定の認知機能の強さや弱さを測ることができる。今回の実験では「Go/No-Goタスク」を用い、反応時間や注意力を測定した。テストでは特定の刺激に対して反応(Go)するか、反応しない(No-Go)かを判断させ、認知制御や抑制機能を評価した。
5. 副交感神経:自律神経系の一部で、体をリラックスさせ、消化や休息を促進する。心拍数や呼吸を安定させるなど、日常生活でのリラックス状態を維持する役割があり、自立神経系の機能には交感神経とのバランスが重要とされている。交感神経は体がストレスを感じた時に活性化するとされており、例えば、驚いたり、運動を始めたりすると心拍数が上がったり、呼吸が速くなったりするのは交感神経の働きによるもの。

利益相反


著者には開示すべき利益相反はありません。

財源情報


本研究は、JSPS科研費(23K24750)の助成を受けて行われました。記して深謝します。

※PDF版プレスリリースはこちら

【問い合わせ先】
公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所 広報 西田
TEL:042-691-1163   E-mail:pr@my-zaidan.or.jp
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