研究所レポート
2020年2月5日
神藤研究員に聞きました
神藤研究員の2つの論文が海外の学術誌に掲載されました。今回はそのうちの1つをご紹介すると同時に、今年最終年度(3年目)を迎えた青年期の研究についても伺います。
「International Journal of Environmental Research and Public Health」に2020年1月1日付で公開された論文について伺います。
まず、これはどのような雑誌でしょうか?
環境と公衆衛生分野の国際学術誌で、掲載内容は、勤労者の健康増進に向けて、オフィス環境改善による座りすぎ解消効果を確認したものです。最近新たな健康課題となっている「座りすぎ」ですが、これまで、オフィスワーカーは勤務時間の60~70%を座って過ごしていることがわかっています。そこで、座りすぎ解消に向けて、オフィス環境に着目した研究を行いました。オフィス環境改善(リノベーション)には、ABW(Activity Based Working、以下ABW)という新しい考え方を取り入れています。
掲載論文について詳細はこちら
ABWのどういうところが新しいのですか?
従業員がその時の仕事内容に適した場所や作業席を選択できる働き方のことで、自由に選べるのがポイントです。今回はABWを実現するために、立位作業が可能な上下昇降デスクの全面導入、自由に選択できる共用席の増設のほか、さまざまな目的地にアクセス可能な回遊型通路が設置されました。
理想的なオフィス環境ですね。 座りすぎは解消されましたか?
グラフをご覧いただくとわかりますが、リノベーション群の座位行動がⅠ日平均で40分ほど減少し、立ったり歩いたりという低強度の身体活動が24分増加しました。
リノベーション後の変化が見えてきました。
この研究のもうひとつの特徴であるAI(人工知能)による画像解析についてはどんな結果がでたのでしょうか?
これは定点カメラで撮影した映像データを解析したものですが、いつ、どこに、何人の従業員がいたかがわかります。リノベーション後には回遊型通路が多く使われ、入口付近や窓際の共用席の活用度が高かったという特徴がみられました。
真ん中の共用席の利用が少なかったのが意外ですね。
そうです。今後は真ん中スペースの有効な活用法を探っていくほか、こうしたオフィス環境の変化が本当に従業員の健康にとって良かったのかどうか、また労働関連指標にどんな影響を与えているのかを検討していきたいと思います。
健康経営のモデルになるような気がします。
ところで、もうひとつ長年取り組まれている研究があると思いますが、どんな研究でしょうか?
高校生の生活習慣と健康に関する研究です。青年期は生涯の健康づくりの基盤をつくる重要な時期ですので、この時期の運動スポーツ活動と心身の健康との相互関係を明らかにするため、高校1年生から3年生にかけた縦断調査を実施しています。
高校生を対象としたのは、ほかに理由がありますか?
健康にとって大切な時期にも関わらず、高校生を対象とした研究が少ないということもありました。「持ち越し効果」といって、もともと運動している人は、将来も運動している可能性が高いと言われていますが、さまざまな事情で、この時期に運動を中断することが多いのです。中学生の6割がスポーツをやっているのに、高校生になるとその割合は半数以下になってしまいます。そこで、スポーツクラブに入っているかどうかだけでなく、もっと多様な活動のしかたを見つけ、その効果を明らかにすることで、スポーツを継続する後押しとなるような仕組みづくりができればと考えています。
今回のフィールドとなった高校では、スポーツの実施状況などに特徴はありましたか?
スポーツクラブへの所属率をみると、5割くらいでした。他の高校とおよそ同じです。一方で、スポーツの戦績は全体的に高く、スポーツ強豪校といえます。これまでの研究では、戦績が良い生徒はストレス対処力や自己効力感が高いということがわかってきています(体力研究2018)。戦績が良いということはそれなりの経験を豊富に積んでいるということです。今後は、スポーツを通してどのような経験を積むと良いのかという点について深め、多様な運動やスポーツのあり方を模索していきたいと思います。
研究のゴールが見えてきましたね。
はい。目指すのは、自主性、汎用性、多様性ということで、それぞれの特徴を明らかにしながら、多くの人の健康づくりや健康意識を後押しするような研究成果を発信していきたいと思います。